正しい休日の過ごし方

いい時間の使い方ですねといわれたので改めて考えてみる。
休日は何もしなくていい日なのではないだろうか。
だから、その中で何をするのかは人の自由で、
本当は人生に休日とか平日とかの区切りは無くて、
結局のところ、暇つぶしなのだろう。
とはいえ、現実にはそうも行かない。

先日、明治神宮にいってから、仕事をこなして、
先輩を拾って、友人の家に遊びに行く。
夜の23:00についてピザとゲームと映画とともに過ごし、
3:00には家に帰る。
そっから、僕は本を読んで、先輩は睡眠をとる。
・・・僕の布団で。まあ、いいや。普段から床で寝てるし。

朝の8時に目が醒めて、調布駅のマックで朝食を取る。
今日は箱根に行って、遊ぶ予定なのだ。
もう一人の友人は少し遅刻してきた。
東名高速を走ること2時間で箱根に着く。
予定はひとつ。ユネッサンスに行くこと。
でも、箱根には色々な美術館や博物館があるから、
他の二人の要望により星の王子様ミュージアムへ向かう。
恥ずかしい話で、僕は星の王子様を読んだことがない。
記憶に残ってるのは、断片的なアニメの映像で、
我侭な薔薇と星の王子様の関係のみ。
象を飲み込んだうわばみも、王様も、実業家も、地理学者も
何もかもを僕は知らなかった。

ミュージアムは絵本の世界を模したヨーロッパ風庭園の中に、
展示する建物があり、2階部分に作者の人生を、
1階部分に星の王子様の展示物を陳列している。
・・・作者の人生は凄いな。

一番記憶に残っているのは、二階から一階部分に向かう階段。
そこは砂漠の夜空を模した模型と展示物、
プロペラの音とともに流れる音楽、
それが途切れたら浮かび上がる王子様の肖像。

「・・・作者が見た砂漠の夜空はこんな感じだったのだろうか?」
「ねぇ、素敵だね」
「ああ、きっと綺麗な星空が連なっていたのだろうね」
「昔も今も人は星を見て、魂の燃える姿を重ねる。
星になるとはよく言ったものだね。星の煌きは命の灯か。」
下の階の登場人物の名前と、その由来、そして言葉。
少し興味が沸いてきた。

「本当に大切なことは見えないんだよ、か」
なら、この世界には見るべきものは何もないのだろうか。
それとも彼が薔薇を愛した理由を言っているのだろうか。
「まあ、どちらでもよいのだけどね。」
人の欲望のほとんどが眼に見えるもので、
大切なものはきっと形すらないものなのさってね。
そして、各国の絵本の展示室を過ぎて、
シアターへと向かう。
そこでは星の王子様と作者の関係が描かれる。

「私の知る良心を裏切らない唯一の方法は苦しむことだって、
最高にいい言葉だねー」
「市来は子供だった頃があるのか?」
「さあ、いまも大人ではないと思うし、子供でもない。
僕は最初から僕でしかなかった。」
「はは、確かにそうだよな。」

土産屋と隣接するカフェ、レストランへ向かう。
「☆の王子様饅頭とか最中とか木刀はないかな?」
「韓国版の星の王子様が軽く北の王子様に見えたし・・・」
「このうわばみのぽーち可愛いかも」
「うわお、このクッキー星のシール張ってあるだけだぜ」
「・・・なんでパズルのピースは108なのか?
煩悩だらけの大人の心を悔い改めよ!ってことかにゃ」
「羊フェアって・・・隣の名物料理羊のコンフィだよ!」
「食べちゃだめーw」
「あー、このペンいいね。銘入りで、渋くていい。
映像に出てきた作者のペン、モンブランだったけどね」
「ちょっ、このピアス王子様が首吊りしてるみたいじゃね?」
「っていうか、ちっちゃ!」
・・・お騒がせしました。男二人と女一人の物欲爆発。
御土産にうわばみのキーホルダーを買いました。
喜んでくれるといいな。

次に硝子の森に行きたかったのだけど、ちょっと失念。
忘れてしまった。次、彫刻の森に来たときによろう。
昼食に強羅の駅前にあるとんかつやに向かう。
ここの名物の豆腐の煮とんかつをたべたかったらしいのだけど
生憎の売り切れ。とんかつ美味しかったけどね。

そして、本題のユネッサンス。
この段階で僕は寝不足と長距離運転で軽くぐろっきー。
「ぐはぁ、もう駄目。帰ろう。もういいよ」
と呟く僕に先輩が一言。
「水着☆」
・・・復活。
「水着♪」
それに対する彼女の返答は
「絶対プール行かないからね!」
・・・水着持ってきたくせにw

冗談はさておき、道中、先輩が泳げないということなので、
僕が臨時の水泳講師となることになった。
館内は以上に広く、湯数も多い。
ちゃんと大人数できたらもっと楽しいだろう。
「では、そのプールで待ってるからw」
そういって、彼女とはお別れ。
先輩と二人でプールへ向かう。
でこぼこした地面にもう既に足の裏が痛い僕に
足裏マッサージは無理です。
ドクターフィッシュの展示がされていた。
一回、試して皮膚を食われてみたかったけど大行列で断念。
一通り回って、市民プールのような場所へ到着。

「水泳を教えます。基本は浮くことです。バタ足です。以上」
幼稚園児にも水泳を教えたことのある僕に
言葉の通じる先輩に水泳を教えるなんざ、わけないぜ!
「浮くコツは体内に空気を残しながら浅く呼吸すること。
そして浮力を最大限得るために重心を一点に集中せず分散すること」
「いわれてもわかんねーよ」
「確かに、では簡単に言います。
背筋をまっすぐ、身体に力を入れなきゃ浮きますよ」
「っていうか、幼稚園児にそれで教えてたのか?」
「・・・小学生の親御さんには泳げるだけでなく、
理科も成績が良くなったとかいわれました」

まあ、そんなわけで基本のフォームをさくっと調教。
本当なら3回の授業で教えるカリキュラムを20分に凝集。
初心者とはいえ少し泳げるならいけるっしょ。
時間もないし、別に競泳用カリキュラムでもないしね。
おかげで先輩はクロールがちゃんと泳げるようになりました。
あとは回数をこなすだけ。

温泉に行こうとした矢先に彼女と偶然遭遇。
「・・・水着」
「やあ、偶然だね。どこ行くの?」
「・・・ビキニ」
「マッサージにいこっかなーって。」
「じゃあ、一緒にプールいこっか?」
「えー、私、泳がないよ」
「いいよ、行こう」
とプールへ誘導。一人じゃ詰まらんもんね。
それにつれてきてしまえば、こちらのもの。
ビーチボールを買って三人で遊びましたとさ。

その後、男は温泉に、彼女はオイルマッサージへ。
緑茶、墨、日本酒、ワインと種類が豊富で、
軽くのぼせてしまいました。疲れたー。

車の中で三人、朝のミスドを食べ、暫くグロッキー。
帰りの道中、海老名のSAで土産を眺めて、調布に帰宅。
家に着いたのは夜の22:05で、調布の焼き鳥屋へいった。
軽く酒を飲んで、恋の話をしながらその日を終えた。

うん、なかなか休日らしい休日だった。
明日から仕事頑張るぞい。

偶然の出会い

仕事を終えて、深夜家に帰ると着信があった。
「小動物って大丈夫?」
「ええ、まあ。大好きだし、可愛がりすぎて逆に駄目な人です」
「じゃあ、殺すのはOK?」
「深いですねぇ」
話に聞くとねずみが出たらしい。
「それより僕はのりぴーの看病のほうが大切です」
「オレの心配もしろ」
「いや、ねずみなんて普通だし。よく見れば可愛いし、親戚だし」
「ディズニーも嫌いになった。もうやだー」
「あー、もう。ロイホでも行きますか」
「喜んで」
ってなわけで、甲州街道を30分かけて向かう。
家に着くと、「となりの部屋から音が聞こえて出れない」
・・・いい加減に、あれです。情けないっす。
冗談かと思えば本気やし。
ってなわけで、僕が部屋を隈なく確認して、引っ張り出す。
で、ロイホに向かうと閉店だった。
「・・・どうします?」
「世田谷通り沿いになんかあるだろう」
で、行き着いた先が明治神宮 at 5:00
「人が一人もいないっすね」
「うん、いいね。聖域って感じで」
「今日は七夕かー」
みると境内に七夕が飾られていた。
それを写真に収めていると後ろから声をかけられた。
「あの、写真を取ってもらえますか?」
年配のおばあさんが声をかけてきた。
なにやら、孫に写真を送るとかで、僕の携帯でとった写真を
送って欲しいという。
出来る限り、こういうことには手を貸そうと決めているので
写真を撮ってメールで送信した。
「この辺りに住んでいらっしゃるの?」
「いえ、偶然です。」
こんな出会いもあるのだなぁと思った。
なぜなら辺りには僕達しかいない。
出会うべくして、出会ったというのかな。
これも神様の思し召しかもなーと思った。

朝目覚めると携帯に着信が。
「おはようございます」
「おはようございます、キミは道玄坂と小金井と府中、
どっち!?」
「・・・売り上げが一番高いのは?」
道玄坂じゃないかな」
「じゃあ、そこ」
・・こんなのりで決まりましたとさ。
ちなみにこれは選択肢があるようで、ない。
この中で道玄坂だけランクが違う。
他の店は今の店よりも売り上げが下がるが、
道玄坂は1,5倍。
今の店でも上位30位以上にも関わらず・・・だ。
ある意味、昇進を試される試練の場所でもある。
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ところで、最近、店関連のイベントが多い。
駐車場の当て逃げを警察に通報したり、
常連さんと飲みに行ったり、
先輩が転勤したり、さ。
変化の時期なのだろうか


対立・転勤

先輩が転勤になった。
そして、僕も転勤が仮決定した。
所在地はいまとあまり変わらない。
そんなわけで今日は仕事のはなし。
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先日、バイトが遅刻してきた。
最近、あまりにも遅刻する回数が多いため、
来た瞬間に叱ろうともう既に決まっていた。
なので、彼が店に来た瞬間、事務所の壁に押し込んだ。
すると彼は逆上して、拳をあげてきた。
いかんせん、僕との体格差があるので彼の拳は空を切り、
両手を拘束されて身動きの取れない状態になった。
「で、なんで遅刻してきたんだっけ?あ、店長は厨房をお願いします」
「ああ、だから授業があって、バスが遅れたんだよ!
こっちだって、悪いと思ってんだ!」
うん、切れてる切れてる。
「悪いと思ったら、なんでも済むのか。お前が遅刻する事で、
他の奴にも迷惑が掛かってるのわかってるだろ」
「でも、しょうがねぇだろ!こっちだって追い詰められてんだよ」
ああ、そうだった。この間、親に成績表を見られたんだっけ。
「っていうか、いい加減離せよ!」
「いや、離したら殴ってくるだろ」
「いいから一発殴らせろよ!」
「殴って気が済むんだったらいいけど、余計ややこしくなるからパス。」
「ふざけんな!てめぇ、やんのか!」
あーもう、完全に引っ込みがつかない状態になってる。
「いいから落ち着けよ」
「離せ!」
「離したら落ち着くのか?じゃあ、ほれ」
と、手を離した瞬間に殴ってこようとする。
あーめんどくさ、と思いながら相手の肩を押して、
威力を削いで、再び密着。拘束。
すると別のバイトがやってきた。
「あーもう、めんどくせぇなぁ」と間に入ってくる。
いいタイミングだなぁと思ったら、
「おらぁ、一発殴らせろ!」と更にヒートアップ。
今黒板叩いた手、痛くないのかなぁ。と思っていたら、後日、
彼の手はそれが原因でヒビが入っていた。
「しのみー、こっち大丈夫だから店よろしくー」
「ほんとに?うぃ」と仲裁に入った彼を戻らせる。
「んだこら、表でろや!」
「お前、金大丈夫なの?だったら9時Lでシフト組むぞ」
というと、相手はきょとんとした。
よし、意識がそれた。
「お前が単位やばくて、親に睨まれてんのも、大学が遠いのも
知ってる。だけど、遅刻されたら困るのも理解しろ。
遅刻しないようなシフトを提出すればいいだけだろう。」
「あ・・・はい。」ようやく沈静化。
「それでいいんだな?それで来週のシフト組むぞ」
「はい、済みませんでした」
「ごめんな。でも、怒らなきゃいけない時ってあるんだ。
他の奴に示しがつかないからさ」
「はい、わかります」
「うん。前にもいったけど、お前に期待してんだ」
「・・・ありがとうございます」
「じゃあ、片付けようか。」
「はい」
「ごめんな、ここ赤くなってる。痛かったか?」
「大丈夫です、はい。」
その後、二人で事務所を片付けて、仕事に復帰。
さっきのことを笑えるくらいに関係は修復。
「市来さん、力つよすぎっすよ。全然、びくともしねーの」
「市来さんはさっきので疲れました。」
「ほんとっすよ。やんなきゃ良かった。」
「だねー。」
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ああ、久しぶりに掴み合いになった。集中力いるわ。
今回、相手が力弱くて助かった。
もし仮に、掴みきれなくて殴られでもしたら詰まらん結果になる。
素人同士で殴っても、お互い怪我をするだけだし。
あんま、慣れてないのだよねぇ。こういうの。
上手く行ってよかったけど。

怪談、神社

神社はもともと清浄な土地に神様をお奉りする場合と、
その土地そのものや他の何かを鎮める為にお奉りする場合が
ある。
そもそも神社の起源は、
磐座(いわくら)や神の住む場所である
禁足地(俗に神体山)などで行われた祭事の際に
臨時に建てた神籬(ひもろぎ)などの祭壇であり、
元々は常設のものではなかった。
神は常に同じ常世にいるのではなく、
あちらこちらを流転していた。
そこで現在、鳥居を挟んで常世と現世の境を設けて、
ご神木や神殿が備えられ、そこに神を置いている。
それは神を奉るためか、縛るためなのか…。
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幼少の頃、僕はよく神社の境内で遊んでいた。
祖母にはよく「神様の眠りを妨げるのはけしからん」などと
怒られていたものだけど、神社は広く、鎮守の森には池や虫が取れるし、
その神聖な雰囲気はなにか秘密がありそうで、
ちょっとした冒険気分を味わえた。
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そんなある日、友人がこんなことを言い出した。
「知ってるか。霊感があるやつが神社の木の葉で瞼をこすると、
眼には見えないものが見えるようになるんだぜ」
それはなんだかすごいことのようで、
もしかしたら神様と会えるんじゃないかとか、
なにか願い事が叶えてもらえるかもと僕達は騒いだ。
それで僕達は効果がありそうな榊の御神木の樹によじ登って、
木の枝に腰掛けるとその方法を試してみた。
「なにもみえないよ〜」と友人達が口々に言う中、
「・・・取り囲まれてる」と彼は言った。

怪談、海辺の鳥居

ある日、僕は友人と海水浴に出かけることになった。
夏場ということもあり、海はものすごい人で、楽しめる雰囲気ではなかった。
そこで僕と友人は旅館の人から近づいたらあかんよと
いわれていた入り江に向かうことにした。
その入り江の周辺はあまりに流れが強く、泳ぎには向かなかったが、
それが理由であたりに人はいなかった。
僕と友人は泳ぐでもなく、入り江の近くで蟹や貝を拾うなどして過ごした。
時間がたって潮が引くと、近くの浅瀬に洞窟があるのが見えた。
その奥には石段があって、鳥居がいくつも連なっているのが見えた・・・気がした。
なぜ曖昧なのかというと、見ているとなにか嫌な感じがしたから。
どうしても見つめることが出来なかった。
「いくぞ」「あ、・・・うん」
僕達は入り江を後にした。

旅館に行くと、そこは妙に古びたところで、僕の部屋からあの入り江が見える。
どうも、あの入り江が気になって仕方が無い。
気になる理由としてあげるとすれば、
あの石段と鳥居を見た頃から誰かに見られているような
そんな視線を感じるようになったからかもしれない。
誰かに見られてるのかと周りを見回してもそれらしき人物は見当たらない。
だけど……たしかに誰かに見られているという感じだけはずっと残っていた。

夕飯を終えて、一日の締めに風呂に入ることになった。
あの奇妙な視線は未だに消えず、頭を洗っているとき
何気なく後ろのほうにシャワーの水をかけては
「お前、なんで水かけてくれるんだよ!」と怒鳴られる。
ぼんやりと二人で月を眺めながら話をしていると、
「じゃあ、オレは先に上がっとく」といって友人は出て行ってしまった。

そうして、どのくらいたっただろう?
どうやら知らぬ間に寝入っていたらしい。
今が何時なのかも分からないが、
電気が消えているところを見るに消灯時間は過ぎているらしかった。
月明かりを頼りに脱衣所の電気をつける。

・・・ジ、ジジ・・・

あの特有の音を響かせながら何度か点滅を繰り返してから明かりはついた。
着替えを済ませて電気を消す。
真っ暗な旅館の中を窓から差し込む星明りを頼りに歩く。
床のギシギシと響きは静かだから余計に音が大きく聞こえる。
二階へ上がり一番奥の部屋、俺一人で泊まる予定の部屋に着くと、溜息を吐いた。
なんだかんだで緊張していたようだ。怖くなかったといえば嘘になる。
部屋に入り、敷かれていた布団に入り横になる。
そのまま目蓋を閉じているとあっけなく眠りに落ちた。

・・・だが目はすぐに覚めた。
俺は再度目を閉じて寝ようとしたその時、

……タンタン、タカタン、タカタン、タンタン…

足音なのだろうか。スキップをするでもない。タップを踏むでもない。
けれどなにかのリズムに乗ってるような軽快な足音が部屋の外から聞こえてきた。

……ょ……みて……ょ…たし……

よく聞き取れないけれど、確かに声も聞こえた。
声はその足音に合わせて聞こえてきた。

……タンタン、タカタン、タカタン、タンタン…

……ょ……みて……ょ…たし……ここに……ょ…

俺は気になってドアの方に忍び寄ると耳を傾けた。
止めとけばいいのに、どうせいいことはない。昼間だって変な感じだったのに。
そうは思うが俺は誘われるようにそうしてしまった。

……タンタン、タカタン、タカタン、タンタン…

軽快な足音。楽し気なようにも聞き取れるその音に合わせて聞こえてきたのは。

……みてよ、みてよ……わたしをみてよ……ここにいるよ……そこにいるよ…
……あいたいよ……早くあいたいよ……
……ずうっと待っていたんだ……キミにあえることを……

そんな……ラジオから聞こえてくるノイズが混じったような薄気味悪い声だった。

ここに誰かが足を運んだ気配は無かった。
仮にやってきたのだったら床が軋むはずで、
声は、どうも遠くから流れてくるようだった。
脳裏に浮かんだのは見ていないはずの鳥居。
思った瞬間に、窓の、あの石垣に眼を向けてしまった。

・・・翌日、目が醒めると僕は入り江に倒れていた。

夢を見た。

「お前が殺せば、残されたものが殺すだろう。
殺し合いの連鎖を絶とうと自ら命を断てば、
後を追うものがいるだろう。それは生命の螺旋。
永遠に尽きることの無い運命。それでもお前は殺すのか?」

殺し合いの螺旋の中で、戦場の森を駆け巡る。
どこまで行ったろう、なんの音もしなくなった沼地で、
ふと振り返ると二本のひまわり。
左手には朽ち枯れた、右手には青々としたそれらの頂に
太陽が燦々と輝く。
「左手に死を、右手に生を。奪いあいの果てに
このどちらかの道しか残されないのならば、
叶わくば一滴の奇跡を。一雫の安らぎを。
頂に輝く恵みのように、与えることの素晴らしさを。
光あれ、光あれ、光あれ。」
頭上に輝く太陽は輝きを増し、世界を白く染め上げる。

気がつけば夜。手のひらに一雫の結晶が握られている。
朝露のようなそれは生命の欠片だという直感とともに、
それを使うとき、同時に自らの命を与えることだと知った。
「無から有を作ることはもう叶わない。
生きるものから新たな命を与えないかぎり。」

生命を与えることで、世界は殺し合いの螺旋から抜け出せる。
生命の渦の中で、自らの存在は永遠に受け継がれる。
そう気がついて目が醒めた。驚いたことに、僕は泣いていた。
疲れているのだろうか?