夏の夜、蛾
市来さんはいまものすごく死にたい気分の中で日記を書いてます。
五年後の僕、いま、君はどんな気分かな?
願わくば、幸せでいて欲しいよ。
そんな気分は、今までの23年間でそうそう味わってこなかったけどね。
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ところでタイトルの夏の夜の話。
夏の夜にしてはならないことがある。
1.夜道を振り返ってはならない。2.名前を呼ばれても返事をしてはならない。
3.見知らぬ場所に立ち寄ってはならない。
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電球に吸い寄せられる蛾を眺めて「蝶と少ししか違わないのに難儀だね」と呟く。
蒸し暑い夏の夜のせいだろう、夜道を歩く人の数が格段に多い。
コンビニに涼を求めて集う人々を眺めては、蛾よりも色気に乏しいなと、苦笑い。
年間通して、深夜に立ち読みに行く僕よりはましか?
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そんなわけで、夏の夜は変質者が湧く。
思い出したように、夏の夜の暇つぶしに、それとも何か理由があって、
電球に集まる蛾のように、夏の夜に吸い寄せられる。
「・・・いや、そんなもの僕に見せられても」
無言で僕を見つめる変質者は、夏なのにコートを着て、裸だった。
「おつかれさまで〜す」といって、僕は踵を返して駅に向かってダッシュ。
面倒は嫌いだし、後をつけられるのも堪らん。
渋谷は怖いところだ・・・orz。
昨日は昨日で妙齢のおねにーさまと思しき人に「マッサージしない?」と聴かれ、
「自分、骨はまだ歪んでないし、終電がそこまで来てるので帰ります。」と応える。
今日、その話をしたらその人は店の常連らしい。・・・そんな常連はやだなぁ。
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酔っ払って身を寄せ合う恋人達、肩を寄せ合い歩く姿、恋人達を見ると空しくなる。
そんな中で、電車の座席に40代後半の夫婦がいた。
肩にもたれあって、両手を恋人繋ぎしているその姿は僕の理想。
ただ、愛する人が傍にいることだけを望んでいるのにね。
出世欲もなく、物欲も、食欲も色褪せて、睡眠欲だけがかろうじて残って・・・。
物質社会、現代人に満たされないのは愛情だけになったのだろう。
だから、みんな恋をしたがる。売ってないから。
「男も女も存外、つまらんものだ。下らんなぁ。」と強がってみても、
やっぱり僕は寂しいし、空しいし、この空虚な気分を満たすだけの代替物もなく。
それでも日常は良くも悪くも感情を削り取ってくれる。
忙しさに紛れていれば、何も考えずに済む。仕事は幸いに楽しいし。
何も残らないくらいに削り取ってくれればいいのになぁ。
もっともっともっと、過酷な忙しさを、何も考えずに、
目の前のタスクだけをこなせていればいい。
忙しさの、緊張の節目に訪れる空虚を感じない位に間断なくやってくる命令を望むよ。
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夏の夜に電球の傍に飛び回る蛾。
仰向けに落ちて、地面でモガイテやがて息絶える。
「君らの人生は・・・色々、考えさせてくれるね。」
・・・せめて、彼らの見る最後の光景が、光でありますように。
それが仮初の太陽であっても。
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ところで冒頭の3つのしてはならないことがまるっきり無視されてる形になります。
幽霊も、変質者も、性質が悪いことに変わりはないし。