当日

・・・6時にここにおろされても何もやる事がない。
仕様がないのでコインシャワーを探しても、
この辺にはそんなレトロで便利なものは存在しないという。本当か?
結構な早朝からやっている本屋でひたすら立ち読みをして、
爪と髭をそって、ウェットティッシュで肌をぬぐう。
軽くシャワーを浴びたいのですけど。まあ、いいや。
歯を磨きながら、浮浪者の生活とはどんなものだろうかと思ってみる。
新宿にも、ここにも彼らはして、それぞれに生活している。
きっと、死んでいないだけでつまらない生活なのではないかな。
少なくとも、僕には日々を無為に過ごすことが耐えられない。
ワーカーホリックな僕は休日なのにやっぱり仕事が気になってしまう。
・・・忘れよう。これから嬉しいことが待っているのだから。
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二人で阪急にのって京都へ向かう。
何度来ても、この四条の町並みは変わらない。
鴨川も相変わらずだし。加茂川とか賀茂川とか鴨川とか言うらしい。
「それでね、このデルタ地帯から名前が変わるんよ」
「三角州だね」「ね、なんでだろう?」
「それはきっと川境に町人が対立したためだろうさ。きっと悲しい歴史が…」
「うん、適当だね」「適当だよ」
そんな適当な二人は、行き先も適当で、なにもかもが適当だった。
「茶碗坂だ」「願いがかなうね」「そうだね」「あっちは三年坂だよ」
「・・・メインの清水寺を見ずにそちらのほうへ向かうのか君は」
「あ、忘れてた」とか「この先には何がありますか?」「舞台です」
「うん、チケット売りの御姉さんも適当だね」とか、
本来、奉られている仏像には眼もくれず舞台へ向かう二人。
「実は歴史的建造物とか興味ないでしょう」「そんなことないよー」
とかいいながらやっぱり僕もあんまり興味がないので
三本の滝の水の柄杓が紫外線で殺菌されてるのを見て興奮したり、
とりあえず一気飲みしてみたり、三本の滝の水を全部飲んだ外人に対して
「あれって、欲張ると不幸が訪れるのだよ」といってみたりした。
行き先も適当で、とりあえず親からの要望だったちりめんじゃこを買いに、
土産物屋さんにいいところをきいて迷って、
京都なのに何故か民家でマグロ丼を食べた。うん、適当だ。
読み返してみても適当で、僕はひどく浮かれていて、
でも、それがひどく楽しかった。
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次に平安神宮にいってみた。
「そういえばここってなにを奉ってるの?」「世界平和!」
「・・・ああもう。かわいいなぁ」「えへへ」「その適当さ加減が最高に好きだ。」
とかいいながら近くにあった京都府立図書館に行ってみたり。
なかを適当にみながら、意外と少ない蔵書数に驚く。
図書館をぶらっとしたら、今度は近くにある児童公園で平和を実感してみた。
トンネルをくぐる男の子を見やりつつ。
「彼は一体、その先に何を見つけるのだろうか?」「世界が広がるね」とか
ぼやきながらベンチで腰掛ける。久しぶりに休日を過ごしているような気がするよ。
穏やかな時間を5分ほど体感したら、次の目的地へ向かう。
詩仙堂・・・というところへ行った。獅子おどしの発祥の地らしく、
やっぱりここもゆったりした時間が流れている。
「あ、蜂だ」「仲間だね」「あんま好きじゃないけどさ、ってなんで?」
「たくさんよってくるから」「なんで微妙に離れるかな、君は」
とかいいながらここも後にする。
その後に偶然発見した芭蕉庵にいったり、ここでもぶらぶらしてから
造形大学からバスに乗って再び四条に戻る。
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この辺りから記憶が曖昧になる。
多分に前後関係が相当に狂っているかもしれない。
鴨川近くのシュークリーム屋で、京ナス、京唐辛子、京トマト、あとなんだっけ?
のシュークリームを分けて食べる。トマトが好きだったなぁ。
その足で錦市場に入って、豆乳ソフトクリームと豆乳ドーナッツを買って、京都を後にする。
あんまりはっきり言わなかったけど、豆乳ドーナッツめちゃくちゃ美味しかった。
出来立てはやっぱり違うのだろう。ところで、錦市場っておいしそうなものばかり売ってる。
串で焼いた魚とかさ、赤みのマグロとか。本当においしそう。
思わずつまみ食いしてしまうのだけど。世界一辛い七味とかさ。
「・・・ものすごく辛いんだけど」といってる隣の人は少し涙目。
辛いと本当に唇が腫れるのだね。と感心してしまった。その後、何故か僕は叩かれる。
そんなに辛いか。今度、神谷さんに買ってみようかな。
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電車で二人とも少し眠る。疲れたのだね。
その日、僕は大阪駅のホテルグランディス?に泊まった。
そういえば、以前来たときもここに泊まったのだよね。
色々便利でお気に入りのホテルだったりする。風邪引いたとき泊まったのが印象的。
お金に余裕があれば噂のリッツに泊まってみたかったのだけど土曜日は予約が一杯だ。
世の中、結構、ブルジョワジーが多いのだね。
・・・そんなホテルのTVをつけると、おひょいが東京のホテルを紹介している。
「おいしそうだね」「うん」「いってみたい?」「うーん」
おひょいもいっていたけど、休日には何も考えないで、
ホテルで一日ゆったりするのがいいのかもしれない。
だから、安眠ベッドとかリラックスコースとかがはやっているのだろう。
自分の部屋というのは意外と落ち着かないもので、
掃除とか、片付けとか、なにかとやることを見つけてしまう。
プールでぼんやりするのも良いし、昼ごろ起き出して、
たくさんの果物とチーズのある朝食を食べて、新聞でも読むのもいいな。
昼は風呂でも入って、ぶらついて、御茶を飲んで、なにもしないをする贅沢。
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夜は沖縄料理の店ではなくて、近くの創作料理の店に行く。
頼むのはかに味噌とか酒盗とか角煮とかもう明らかに飲む気満々なオーダーだったりする。
しかし、いいちこは相変わらずおいしいなぁ。
焼酎は個人的には麦が一番良いと思う。
しそ焼酎とか牛乳とかトマトとか色々あるけど、いいちこは本当に素晴らしいと思う。
ブランデーもいいけれど、和食にはいいちこだね。
最近、気がついたのだけど、僕はビールに弱い。
すぐに酔って、すぐに醒めてしまうし、気持ちが悪くなる。
逆に度数の高い酒のほうはいくら飲んでも酔わなかったりするから不思議だ。
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そうやって夜はふけていった。