黄昏

夕焼け空の空気は澄んでいて、かつての故郷の空気を思い出す。
湯上りの火照る肌を凪いでは心の風穴を突き抜けて、赤く染まった空へと消えていく。
鼻腔を抜けるこのにおいは、はるか昔、幼き日の思い出。僕はこの空気を知っている。
文化祭の前日、誰もいなくなった学校、
体育祭の後、心地よい疲労と暴れたりない衝動、
卒業の夜、故郷を離れることを誓いに行ったあの場所、
なにかの終わり、なにかの始まり、そのときいつもこの空気を嗅ぐ。
これは予感、前兆、そういったもの。ひどく心地いい。僕はこの空気を知っている。
全てのしがらみを捨て去れそうな、爽やかな空気。
すぅっーと鼻から息をすって、はぁっーと口から吐き出すと、なにかを忘れて、
新鮮な気持ちになれる、そんな期待。この季節は心地よい。
冬よサヨナラ、春はそこまで、いまは名もない季節で、始まりと終わりの中間点。
朝と、昼と、夜と、また朝のその狭間にあるこの瞬間。
張り詰めた水面のように、曇りのない鏡のように、安らぐ心。
さあ、歩こう。次にまたこの空気を嗅ぐ時まで。
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