今日、今年初めてであろう雪に触れた。
白く儚いそれは僕の体温を奪うと溶けて、形を変えた。
僅かな水滴になったそれを手のひらから逃れ、手首へと伝う。
舌を這わせて、舐めると僅かに甘い。この手首を噛み千切ったらどうなるだろう?
この一面の白の上に、赤く花のように血が咲くだろうか。
それはとても美しい光景のように思えた。そして、あの人のことを少し思い出した。
あの人はまだ生きてる実感が湧かず、手首を切っては痛みを感じているだろうか?
いつだか僕の通った道、そこにいる彼女をどうにかしたかった・・・どうしたかった?
たくさんのことを知って、たくさんのことを経験して、たくさんの人に出会って・・・
僕はもうそこにはいなくなった。きっかけとなりたかったのかもしれない。
でも、それは僕の役割ではなかったのだろう。
だから、いま、僕は彼女がどうしているか知らない。
そうやって親しい人は離れ行く。愛する人は死ぬ。白く煌き輝く恋も、夢も、
春には醜く溶けゆく雪。もっとも大切なものさえもいつか失はれる。
それは不条理だ。楽しい時間があればあるほど、だんだんと辛くなる。
いい時はなくなる。びっくりするぐらいに、なんでも消えていく。
そしていつの日かなにも感じなくなる。終わっていく。
死ぬにはまだ時間がある。長くて、短い。どちらにせよ同じこと。
雪のように儚く溶けゆく命なら、水となってあなたの糧になればいい。
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