わからないこと

わからないことがある。なにが原因だったのか?
全てが終わったいま、それだけが残されている。
後付の理由なんぞいらない。きっかけがなんだったのか?それが知りたい。
単純な興味なのか、エピローグを知りたいのだろうか、すっきりしない。
多分、それが最後の鍵。物語の大概は語られないことだけど、
物語の最後を埋める最後の一欠片。知ったところでなにが変わるとも思えない。
でも、なにかがある。なにか、が。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
数多の嘘をつくうちに、本当になってしまったこの気持ち。
それらたくさんの嘘を、彼女もついていたのだろうか?
だとしたら欺瞞だ。最後に、最初から僕が執着していたのは、
愛してもいい人、愛を受け止めてくれる人だった。
その意味で、彼女は理想だったのだろう。
結局、僕は変わらなかったけど、それがどういうものか一端を見た気がする。
下らない。自己愛を満たすものが他人なんて笑い話でしかない。
何者でもなく、何処にも居場所がないこの僕が望んで孤独を楽しみ、
それでも誰かの一番になることを望んでいたように、
たくさんの友達に囲まれながら、何者でもなく、いつも仲間はずれだと思って、
独りで泣いていた彼女もまた誰かを求めていたのだろうか?
ただの彼女であったから、誰かの特別になりたかったのだろうか?
理想。他人は鏡。自分を映す鏡。理想を映す。自分に恋をしていたのだろうか?
人の話を聞かないのはお互い様だった。素直じゃないといわれようと、僕は僕。
「イチキはいつまでもイチキだよね」と何人の人に言われただろう?
日本人でもなく、シンガポール人でもなく、何者でもなく、どこにも属さない。
どこにも所属しないただの彼女のように。
それでも、変化を望まない僕と、変化を望む彼女、其の壁は絶望的に高い。
違和感があろうと、価値観の違いがあろうと、そんなことは細かなこと。
下らない、どうでもいいこと。終わったものを顧みても、栓のない話。
なにをしたいのだろうね、僕は?
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
欠片をまた失ってしまった。望んだ世界の欠片は何処にあるのだろう?
そんなものは最初からないのかもしれない。だから代わりになるものを
いくつも、いくつも填めて、この心にぽっかり空いた穴を塞ごうとする。
信じた。でも、信じすぎてはいけなかった。魔法は解けると言っていたのに。
疲れた、苦しい、痛いと喚いてみても、自分で歩くしかない。
独りで歩くのにはもう飽いた。誰かとともに歩きたい。
幸福は独りでは得られない。幸せなものは誰かと共有すべきなのだ。
わからない。自分の気持ちすらももうわからない。
どうでもいいと幕を下ろしたところで、
わからないことは、わからないまま。そんな結末では我慢できない。
知りたいのだ。僕の知らないことを。
そうすれば、きっと幸せになれる。きっと幸せになれる方法が知れる。
ああ、そうか。僕は幸せになりたいのだ。
だから知りたいのだ。だから愛したいのだ。だから、生きたいのか。
下らない。下らないけど、ね。
今更そんなことに気付くなんて、馬鹿じゃないか。
あーあ、詰まらん。結局、それか。子供の頃から変わらない理由はそれか。
そんな幻想をまだ信じていたのか。
あの時、幸せになりたいといえなかったことがそんなにも心残りだったか。
誰かに縋りつくことも、泣きつくことも赦さない気位がそんなに邪魔か。
溜め込んで、溜め込んで、溜め込んで、我慢して、諦めて、誤魔化して、
時に吐き出して、訳がわからなくなるほど溜め込んで、
自分の気持ちが判らなくなるほどになって、我慢できなくて、
その頃には何が原因かすらも忘れて、人を傷つけるのが嫌で嫌で嫌で、
自分を傷つけて、自分の気持ちを隠して、自分からも隠して、
見失って、それを赦してくれる人に振られて、ようやく思い出したか?
で、そうなった理由も思い出したわけだ。
わからないままのほうがよかった。