ハロウィンの夜に

僕はこの季節の空気が好きだ。
ぴぃぃんと張り詰めて、澄んでいて、清らかで、硝子のよう。
外に出て、空を眺める。きっと、世界は美しい。
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今日はいつもいっているジムでも綱引き大会があって、
スタッフは思い思いの格好をしていた。
見ているのは常連の人ばかりだったけど、楽しかったように思う。
学生時代の、イベントをみているような雰囲気だった。
天空祭前日の空気、後片付けをしているときの夜の空気、
それらに似ている。
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図書館に本を返しに行く道すがら、
子供達がジャック・オ・ランタンを持って通り過ぎていく。
いつだか僕が子供だった時分、仮装をしてお菓子を貰ったっけ?
あの時、僕がどんな子供だったか、思い出せない。
突然やってきた子供にお菓子をくれた彼らは元気だろうか?
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バトルロワイヤルを見た。
高校生の頃、ワクモトと見たその映画を、
社会人の今、見直してみた。
そんなに昔のことではない様に思っていたけれど、
もう随分遠くまで来てしまったのだなぁ。
彼は元気だろうか?会いたいよ。
アキハバラも変わったし、登場人物も今では大人になっている。
大人と子供とを批判したこの映画、僕は大人になれただろうか?
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ぼんやりとベンチで夜空を眺める。
暖かい光が空から降り注いで、きっと不思議なことが起きると思った。
一匹の猫が隣のベンチに座って話しかける。
「やあ、猫の人。きみも美人さんだけど神無さんには敵わないね」
そいった僕を猫は物憂げに見やってから、なーと鳴いた。
不思議なことが起こるのはまだ先のことらしい。
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今朝、夢を見た。
それは図書館の夢。
広いホールに辺り一面の本、そして白い外壁に囲われて太陽の光を
磨硝子が暖かく和らげる。とても暖かな日差し。
ただ、一人ポツリとたって辺りの本を眺める。隣を見ると女の子が居た。
綺麗な娘だなと思った。何年かに一度、夢に出る女の子。
僕の理想の女性像の原型になっているのかもしれないと夢の中で思った。
白い肌と黒目がちな瞳と美しい黒髪。意外なことに眼鏡はかけていなかった。
壁にもたれ、床に座りながら本を読む彼女が、不意に話しかけてくる。
「これ分かる?」その声と話し方は、もう何年も一緒に居るような感覚だった。
あまりにも自然で親しげだったように思う。
本に書かれているのは東洋の言語だった。
言語は読めなかったけど、古い物語だと分かった。
「これはね・・・」と説明しようと思ったけど、どうでもよくなった。
近くにある彼女の体温に触れて、正直、魅了されてしまったのだと思う。
キスをしようとして、そこで目が覚めた。なんなのだろうね、この夢は。
妙な幸福感に包まれながら、遅い朝食をとる。
今日も天気がよい。
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息が白い。
もう、冬はそこまで来ているのだろう。
あれからどのくらいの時が過ぎた?
ランタンの明かりに照らされて、夜は静かに過ぎていく。
運命も、幻想も、不思議なこともない、再生される毎日。
今夜ぐらいは奇跡よ、起これ。