梅の花

望む世界の欠片。ミッシング・ピースは一度、手に入れたけどなくしてしまった。
手にしたような気がするだけで本当はなかったのかもしれない。
それでも、もうあまりそれに固執していないように思う。
得て、得なかったのかは関係がなくて、本当に意味があるのは実感。
僕は一度だけ、確かにそれを抱いたのだという確信。
それは確かな事実だと信じること。
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白く咲く梅の花。またこの季節がやってきた。
かつての痛みも失われて、セイを思い出してもそれはやってこない。
寧ろ、疼きを手がかりに痛みを思い出し、彼女の存在を思い出す。
そして、疼きのきっかけは梅の花。もう、何年だ?
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今日は、大学の友人達と集まった。
久しぶりに大人数で、かつて、集まったあの部屋と同じような内装で、
同じ顔ぶれで、変わらない関係にあの日を思い出した。
「もう、会わないと思う」・・・記憶が過ぎる。まだ新しい。
この言葉を面と向かって言われて以来、別れをどうしても意識してしまう。
シンガポールにいたあの日の感覚を思い出す。
思い返せば、卒業の季節、この梅の花の時期にはいつも友人が帰国していたっけ。
そういえば、そんなこともあったなと少し苦笑いする。
大学の時には、まったく別れを意識しなかったのに、ね。
さて、今日、あったこの面子、再び相見えるのはいつのことだろう。
まあ、でも、こうしてかつてと同じようなことを出来るなら、
また、こうして集まることも簡単だろう。要は生きてさえいれば。
そして、再会するという意思があれば、それは簡単に実現する類の話だ。
確信を持って、再会をする。それだけのこと。
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梅の花は散って、次には桜が咲く。春がやってくる。
こうして、花を見ては思い出す、たくさんの記憶が増えるだろう。
いつか僕も死ぬ。あと何回会えるかわからないけど、せめて
それを忘れられるぐらいの幸福な時を過ごせますように。